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大阪地方裁判所 昭和27年(行)62号 判決

原告 大阪不動産株式会社

被告 天王寺税務署長

主文

被告がなした原告の自昭和二十二年十二月一日至昭和二十三年十一月三十日事業年度所得金額四万三千九十三円とする更正の中一万七千九十三円を超える部分はこれを取消す。

被告がなした原告の自昭和二十三年十二月一日至昭和二十四年十一月三十日事業年度所得金額普通所得百二十万六百四十七円、超過所得四十八万六百四十七円とする更正の中所得金額三十万九千九十円を超える部分はこれを取消す。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを四分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、被告がなした原告の自昭和二十二年十二月一日至昭和二十三年十一月三十日事業年度所得金額四万三千九十三円とする更正はこれを取消す。被告がなした原告の自昭和二十三年十二月一日至昭和二十四年十一月三十日事業年度所得金額普通所得百二十万六百四十七円、超過所得四十八万六百四十七円とする更正はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、請求の原因として、原告は土地建物及鉱業権の所有売買並賃貸借、旅館営業、飲食業並喫茶等を目的とする株式会社で法人税法にいわゆる同族会社でないものであるが、原告の(一)自昭和二十二年十二月一日至昭和二十三年十一月三十日事業年度(以下昭和二十三年度と略称する。)の決算は別紙第一表原告主張金額欄記載のとおり一、二八七円の欠損、(二)自昭和二十三年十二月一日至昭和二十四年十一月三十日事業年度(以下昭和二十四年度と略称する。)の決算は同第二表同欄記載のとおり一〇五、四八九円の欠損であるので、被告に対しその旨所得申告をしたところ、被告は何等よるところなく、(一)昭和二十三年度は所得金額一〇二、六一三円、(二)昭和二十四年度は所得金額普通所得一、二〇〇、六四七円、超過所得四八〇、六四七円と更正し、昭和二十五年六月十日原告にその旨通知してきたので、原告は同月二十三日大阪国税局長に審査請求をなしたところ、同局長は(一)昭和二十三年度は所得金額四三、〇九三円に一部取消したのみで(二)昭和二十四年度は棄却し、昭和二十七年十月十六日原告にその旨通知してきたものである。

被告の主張事実の中被告主張の同族関係者の間にその主張の如き親族関係の存すること、右同族関係者の中大和藤兵衛大和清蔵を除くその余の者の所有株式数、右両名の株主名簿上の所有株式数及び原告の総株式数が被告主張の時期においてそれぞれその主張のとおりであること、原告の役員に対し被告主張の期間その主張の如き報酬を支給したこと、昭和二十四年度のキヤバレー大阪(以下キヤバレーと略称する。)の品目別仕入金額及び天王ホテル(以下ホテルと略称する。)の休憩宿泊人員数、酒類の仕入金額が被告の主張のとおりであること、並びに別紙第一表原告主張金額欄の中支出の部、諸税金雑費につき及び同第二表同欄の中支出の部キヤバレーの総支出高につき被告主張の如き各誤算があることは認めるが、その余の事実は争う。原告は前述の如く同族会社ではないから被告主張の如き行為計算の否認は違法である。仮に同族会社であるとしても(一)ホテルは戦災にかかつた元病院を金十四万円で買収、金二十一万円で修理増築し、什器備品に金二十五万円を費したものであつて投資金その他を勘案して賃料一ケ月金六千円で網本庄太郎に賃貸したが、右賃料は什器備品の賃料を含めても決して低廉ではなく適当であつて修理改造の進むに伴い同年十一月には金一万円に改訂しており又その当時は地代家賃統制令のため被告主張の如き賃料の大幅値上げは不可能であり、(二)原告の取締役大和源三郎同大洞藤市はキヤバレーを、同網本庄太郎はホテルを各担当し、同大和藤兵衛はキヤバレーホテルの双方を主宰しいずれも常勤取締役であつて一ケ月金一万五千円乃至二万円の報酬支給は資本金三百万円の株式会社の役員として決して高額ではなく、原告において法人税逋脱の目的はないから否認さるべき理由は少しも存しない。次に昭和二十四年度のキヤバレー及びホテルの各総売上高は原告において正確な帳簿に基いて計算したものである。キヤバレー、ホテル共に地理的に最も不利であり建物設備いずれも不完全であつたので収益の見込なく一年程度で廃業した始末で被告の主張するような厖大な利益はなかつた。

以上の理由により被告の前記更正は実際の所得に基かず見込課税によるもので違法であるからその取消を求める。と述べた。

(立証省略)

被告指定代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁として、原告の主張事実の中原告がその主張のような目的の株式会社であること、原告がその主張のような両年度の所得申告をなしたこと、被告が原告主張のとおり更正をしその主張の日原告に通知したこと、原告が審査請求をなし大阪国税局長がその主張のとおり審査決定をなしその主張の日原告に通知したことは認めるがその余の事実は争う。

原告は旧法人税法の規定による同族会社である。原告の実質的支配者である大和藤兵衛は原告の第一次増資時八千三百株同第二次増資時七千五百株を他人名義で取得し、大和清蔵は同第二次増資時一万株を他人名義で取得しているが原告の同族関係者の所有株式数並びに原告の総株式数は次のとおりであつて、第一次増資以降は大和藤兵衛大和源三郎又は大和清蔵のいずれを中心としても同族関係者の所有株式数は原告の総株式数の二分の一を超過するから原告は同族会社である。

同族関係者所有株式数

株主氏名

親族関係

親株昭二二、一二、一

第一次増資昭二三、二、一八

累計

第二次増資昭二四、四、一九

累計

減資昭二四、九、二七

昭二四、一一、三〇現在

大和藤兵衛

源三郎及び清蔵の養親

一六、〇〇〇

(七、七〇〇)

一六、〇〇〇

(七、七〇〇)

一〇、〇〇〇

(二、五〇〇)

二六、〇〇〇

(一〇、二〇〇)

二六、〇〇〇

(一〇、二〇〇)

大和源三郎

藤兵衛の養子

五〇〇

五〇〇

二、〇〇〇

二、五〇〇

二、五〇〇

大和清蔵

三〇〇

三〇〇

一〇、〇〇〇

一〇、三〇〇(二〇〇)

一〇、三〇〇

(二〇〇)

渡辺三郎

清蔵の兄

六〇〇

三〇〇

九〇〇

一、〇〇〇

一、九〇〇

一、九〇〇

三文字正平

清蔵の叔父

八〇〇

三〇〇

一、一〇〇

一、〇〇〇

二、一〇〇

二、一〇〇

三崎辰一

源三郎の兄

三〇〇

三〇〇

六〇〇

六〇〇

一、二〇〇

一、二〇〇

註 括弧内の数字は大和藤兵衛、又は大和清蔵の株主名簿上の所有株式数である。

原告の総株式数

自昭二二、一二、一

至昭二三、二、一七

自昭二三、二、一八

(第一次増資)

至昭二四、四、一八

自昭二四、四、一九

(第二次増資)

至昭二四、九、二六

自昭二四、四、二七

(減資)

至昭二四、一一、三〇

七、〇〇〇

二七、〇〇〇

六〇、〇〇〇

五六、〇〇〇

次に原告の所得は次の如く算定したものである。

(一)  昭和二十三年度の所得、別紙第一表原告主張金額欄の中収入の部貸家料八九、〇二四円三八銭は一八二、五五六円三八銭に否認又は訂正増額し、支出の部諸税金三二、一二〇円一〇銭の中八一円七〇銭のは昭和二十二年度法人税につき、雑費一三、六〇三円四〇銭の中三〇〇円昭和二十三年三月分事務所費は重複につき各否認減額した結果同年度は同表被告主張金額欄記載のとおり収入一八三、六五二円二四銭、支出九一、〇二六円三〇銭差引所得金額、九二、六二五円九十四銭である。

(二)  昭和二十四年度の所得別紙第二表原告主張金額欄の中収入の部キヤバレー総売上高四、六四二、九六〇円を五、五一四、七四〇円に、ホテル総売上高一、三〇四、九六三円五〇銭を二、〇二四、九八〇円に各訂正増額し、支出の部キヤバレー総支出高四、二〇三、六四八円五〇銭の中六一五円は源泉徴収所得税延滞金につき、給料及び手当八六五、五〇〇円の中二八五、〇〇〇円を各否認減額した結果、同年度は同表原告主張金額欄記載のとおり収入七、七二三、七九三円二〇銭支出五、九五一、八七〇円三八銭差引所得金額一、七七一、九二二円八二銭である。そして原告の昭和二十四年度中の平均払込株式金額は二、四〇〇、〇〇〇円となるから右所得金額の中株式金額の三割を超える部分が超過所得となる訳である。

原告は前述のとおり同族会社でありその行為又は計算が客観的に法人税逋脱の目的を有すると認められ、又その帳簿計算書類等はその信憑性極めて薄弱であるから右の如く否認又は訂正をしたものであつて以下その理由を詳述する。

(一)  貸家料の否認又は訂正(昭和二十三年度)ホテルは原告が昭和二十一年十一月六日石神豊一から買受け修理改造の上昭和二十二年一月一日初めて原告の取締役である網本庄太郎に賃料一ケ月金六千円で賃貸したもので地代家賃統制令の停止統制額のない建物であるが右賃料は認可統制額の基準に照すと著しく低額であるので昭和二十三年三月から同年十一月までの右賃料合計金五万九千九百円を否認し、右基準により計算した賃料である昭和二十三年三月から同年九月まで八、八八〇円、同年十、十一月二二、二〇〇円に増額した同ホテル備付の什器備品の賃料は前記賃料との区分が明瞭でないがこの取得価額は二十五万円であつて平均耐用年数十年とし年六分の利子負担を加算すると適正賃料は一ケ月三、二〇八円であるから前記期間九ケ月分につきこれを否認増額したなお同ホテルの昭和二十二年十二月から昭和二十三年二月まで三ケ月分の賃料合計一八、〇〇〇円が計上洩れとなつているので訂正増額した。結局貸家料収入は右否認又は訂正を合算すると一八二、五五六円三八銭となる。

(二)  給料及び手当の否認(昭和二十四年度)原告の昭和二十三年度から昭和二十六年度七月分までの役員に対する報酬支給の状況は次のとおりである。

氏名

職名

支給額

昭和二三年度

昭和二四年度

昭和二五年度

昭和二六年度七月まで

大和藤兵衛

取締役

一八五、〇〇〇

一一五、〇〇〇

二九、〇〇〇

宮二郎

代表取締役

三四、五〇〇

八七、〇〇〇

一〇、〇〇〇

網本庄太郎

取締役

一五五、〇〇〇

七八、〇〇〇

一三、〇〇〇

大洞藤市

一五三、五〇〇

大和源三郎

一五五、〇〇〇

九三、〇〇〇

八、〇〇〇

大和清蔵

監査役

五〇、〇〇〇

六九、〇〇〇

八、〇〇〇

中村健三

原告の定款によれば役員の報酬は株式総会の決議を要するに拘らずこれを定めた議事録はなく、報酬の支給は前述のとおり極めて恣意的に行われその額も一定せず勤務関係とも相応していない。そこで他の原告と類似法人の実例及び原告の昭和二十五年度及び昭和二十六年度七月分までの取締役に対する報酬額等に照して昭和二十四年度の報酬の計算の一部を否認し、非常勤取締役である大和藤兵衛は月額五千円その他の取締役は月額一万円のみを報酬として認めこれを超ゆる部分は利益割賦の賞与と認定し給料及手当から合計二八五、〇〇〇円を否認減額した。

(三)  キヤバレーの総売上高の訂正(昭和二十四年度)原告の記帳による昭和二十四年度中における品目別仕入金額と被告が調査した品目別の荒利益率(売上金額から仕入原価を差引いた額の売上金額に対する割合)は次のとおりである。売上原価を同原価率(売上金額中の売上原価の占める割合)で除算すると売上金額は次の如く四、八〇七、四〇〇円となる。

品名

仕入額(売上原価)

荒利益率

売上原価率

売上換算額

ビール

(1)自昭二四、二

至昭〃九八ケ月

四二五、九五六

五七、八三

四二、一六

一、〇一〇、一七二

(2)自〃一〇

至〃一一二ケ月

二四六、六八二、五〇

四九、四

五〇、六

四八七、五一四

洋酒

四二、七六〇

六五、〇

三五、〇

一二二、一七一

日本酒

五四、八五〇

四八、八八

五一、一一

一〇七、三一五

肴類

一五四、二七七

六五、〇

三五、〇

四四〇、七九一

果物類

四〇五、九〇九、五〇

六〇、〇

四〇、〇

一、〇一四、七七三

菓子類

八一二、三三二

五〇、〇

五〇、〇

一、六二四、六六四

四、八〇七、四〇〇

註一、ビールの仕入単価は一本平均百二十六円五十銭で、売単価は(1)の期間三百円、(2)の期間二百五十円である。

二、日本酒一升の仕入単価は平均九百二十円であり、一升から銚子十二本をとり、一本の売単価は百五十円である。

キヤバレーの経営は実質的に昭和二十三年十二月から原告に属していたと推認される事実があるから同月中のキヤバレーの売上高四四二、四四〇円は原告の昭和二十四年度の収入に計上さるべきものである。この外に入場料収入二六四、九〇〇円がある。そこで結局キヤバレーの総売上高は以上合計金額五、五一四、七四〇円となる。

(四)  ホテルの総売上高の訂正(昭和二十四年度)

原告の記帳による休憩宿泊人員並びに酒類の仕入金額を基準とし被告が調査した料金その他の諸資料によると次の如く総売上高は二、〇二四、九八〇円となる。

種別

人員

料金

摘要

休憩

四九〇

三二五

一五九、二五〇

宿泊

一、六六四

四〇〇

六六五、六〇〇

朝食

一、一六四

二五〇

二九一、〇〇〇

朝食人員は宿泊人員の七〇%

夕食

九九八

五〇〇

四九九、〇〇〇

夕食人員は宿泊人員の六〇%

宴会

二三五

一、二二七

二八八、三四五

宴会人員は一回当り十人平均二十三回

酒類

一二一、七九一

仕入金額七三、〇七五円を売上原価率六〇%で除した額

合計

二、〇二四、九八〇

一〇円未満切捨

以上のとおり被告の各更正は前記所得金額の範囲内でなしたもので何等違法の点はないから原告の本訴請求は失当であると述べた。(立証省略)

理由

原告がその主張のような目的の株式会社であること、原告がその主張のような両年度の所得申告をなしたところ被告が原告主張のとおり更正をしてその主張の日原告に通知をなし、原告が審査請求をなしたところ大阪国税局長が原告主張のとおり審査決定をしてその主張の日原告に通知をなしたことは当事者間に争いがない。先ず被告は原告が旧法人税法の規定による同族会社である旨主張するのでこの点について判断する。昭和二十五年法律第七二号による改正前の法人税法第三十四条第二項によると同族会社とは株主又は社員の一人及びこれと親族等特殊の関係のある者の有する株式又は出資の金額の合計額がその会社の株式又は出資金額の二分の一以上に相当する会社であること明らかであり、右株主又は社員の一人とはその会社の首脳者、すなわち中心株主又は社員を指称するものと解すべきところ、被告主張の同族関係者の間にその主張の如き親族関係の存すること、並びに右同族関係者の中大和藤兵衛、大和清蔵を除くその余の者の所有株式数、右両名の株主名簿上の所有株式数及び原告の総株式数が被告主張の期間においてそれぞれその主張のとおりであることは当事者間に争いがない。そして被告主張の大和藤兵衛が原告の第一次増資時八千三百株を他人名義で取得したとの事実につき考えるに、右主張に副う乙第一、第二号証並びに証人萩野誠造の証言は証人大和藤兵衛の証言に照したやすく措信し難く、成立に争いのない乙第三号証並びに弁論の全趣旨により成立を是認する甲第四号証を綜合すると大和藤兵衛が当時一千株を下らざる株式を他人名義で取得した事実が推測されるけれども未だもつて被告の主張事実を全面的に肯認するに足る証拠はない。次に被告主張の大和藤兵衛が同第二次増資時七千五百株を他人名義で取得したとの事実については右主張に副う証人伝崎正郎の証言は証人大和藤兵衛の証言に照したやすく措信し難く、乙第四乃至第七号証によるも右主張を肯認し難い。更に被告主張の大和清蔵が同増資時一万株を他人名義で取得したとの事実につき考えるに、弁論の全趣旨により成立を是認する乙第四、第八号証によると大和清蔵は当時株式会社富士銀行北浜支店振出金額五十万円の保証小切手を株式会社住友信託銀行本店の原告の別段預金口座に払込んだ事実が認められるけれども右事実をもつて直ちに同人が一万株の株式払込人であるとは即断し難いのみならず、却つて証人大和清蔵の証言によると、右金員は大和清蔵が第二増資事務担当中、高田、三文字、山田某等約十三名の株式申込人から預つた株式払込金であることが窺知される。そうすると被告の自認する原告の首脳者である大和藤兵衛の所有株式数は第一次増資時以降第二次増資時まで八千七百株、第二次増資時以降一万一千二百株を下らないこととなるが、同人と親族関係のある大和源三郎の所有株式数は第一次増資時以降第二次増資時まで五百株、第二次増資時以降二千五百株であり、同様の関係にある大和清蔵の所有株式数は第一次増資時以降三百株であるから以上三者の株式数を合算しても原告の総株式数の二分の一に達しないことは明らかであり原告はその当時同族会社に非ざるものと認めるのが相当である。

進んで、昭和二十三年度の所得について判断する。別紙第一表(同年度損益計算表)原告主張金額欄の中支出の部諸税金について八一円七〇銭雑費について三〇〇円の各誤算のあることは原告の自認するところであり、貸家料を除くその余の科目の計算については当事者間に争いがないところであるが、被告主張のホテル及び備付什器備器の賃料の否認は前段認定のとおり原告が同族会社でない以上違法であり首肯し難いけれども被告主張のホテルの昭和二十三年十二月から昭和二十四年二月まで三ケ月分の賃料一八、〇〇〇円の計上洩れの事実については弁論の全趣旨に徴し原告は明かに争わないものと認められるからこれを自白したものとみなす。そうすると、結局同年度の収入は一〇八、一二〇円二四銭、支出は九一、〇二六円三〇銭、差引所得金額は一七、〇九三円九四銭と認めるのが相当であり、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

次に昭和二十四年度の所得について判断する。別紙第二表(同年度損益計算表)原告主張金額欄の中支出の部キヤバレー総支出高の中六一五円の誤算があることは原告の自認するところであり、キヤバレー及びホテルの各総売上高、給料及手当を除くその余の科目の計算については当事者間に争いがないところであるが、被告主張の給料及手当の否認は前記認定のとおり原告が同族会社でない以上違法であるから肯認し難い。そこで先ずキヤバレーの総売上高について考えてみるに同年度の品目別仕入金額が被告の主張のとおりであることは原告の自認するところであるが、成立に争いのない乙第二十七号証並びに証人齊藤義勝の証言によると、原告のキヤバレーにおいては、ビール一本百二十六円五十銭の割合で仕入れ、昭和二十四年二月から九月までは金三百円、同年十、十一月は金二百五十円の割合で販売し、日本酒一升を平均九百二十円の割合で仕入れ一升から銚子十二本を取り銚子一本百五十円で販売していたことが明らかであるから、ビール、日本酒の各売上高は被告主張の計算のとおり一、四九七、六八六円、一〇七、三一五円となる。

次に成立に争いのない乙第二十九号証第三十号証の一、二によると、原告と同業種の営業における酒類及び料理の荒利益率は昭和二十六年頃から昭和二十八年頃までの間において平均五六%を下らないことが認められ、特段の事情なき限り昭和二十四年当時においても右と同程度の荒利益があつたものと推認するのが相当である。そして菓子類につき被告主張の荒利益率は右率を上廻らないからその主張の売上額一、六二四、六六四円は是認するが、洋酒、肴類、果物類については被告主張の荒利益率によらず右率に基きその売上額を計算すると洋酒は九七、一八一円、肴類は三五〇、六二九円、果物類は九二二、五二一円となり以上合計四、五九九、九九六円が食品類の売上高となる訳である。次に成立に争いのない甲第五号証(一部)によるとキヤバレーの同年度の入場料収入は二六四、九〇〇円であることが明らかである。なお、被告はキヤバレーの経営は実質的に昭和二十三年十二月から原告に属していたから同月中の売上も原告の昭和二十四年度の収入に合算さるべき旨主張し、証人大洞藤市の証言により成立を是認する乙第三十一号証の二並びに同証言によると、大洞藤市は昭和二十三年十二月二日より引続き昭和二十四年にかけてキヤバレーの取引に関し株式会社三和銀行阿倍野支店に当座取引をなしていた事実が認められるけれども右の如き預金継続の一事実をもつて経営者を断定することは失当であると考えられるのみならず、却つて証人大和藤兵衛の証言によると、キヤバレー、ホテル共に昭和二十四年に入つてから原告において経営するに至つたことが認められるから右主張は採用し難い。そうすると、キヤバレーの総売上高は前記食品類の売上高と入場料収入との合計額四、八六四、八九六円となる訳である。次にホテルの総売上高について考えてみるに、同年度の休憩、宿泊人員並びに酒類の仕入金額が被告主張のとおりであることは原告の自認するところであるが、成立に争いのない乙第二十八号証によると、原告のホテルにおいては当時同業者の競争が激しかつたため組合規約を下廻る料金で営業し宿泊のみの料金二五〇円二人四〇〇円朝食二〇〇円程度夕食五〇〇円程度であつて、朝食人員夕食人員は宿泊人員のそれぞれ七〇%、六〇%であること並びに酒類は三割位の利益を得て販売していたことが認められ、証人伝崎正郎の証言によると原告のホテルの昭和二十四年度中の宴会人員は二三回一回平均一〇人として二三〇人であることが認められ、証人今西弁之助の証言によると、昭和二十四年度当時原告加入の天王寺区旅館組合の各旅館において概ね宿泊料は朝夕食事付で一人一泊九〇〇円を下らぬこと並びに休憩と宿泊のみとの料金は同額であることが明らかであり又成立に争いのない甲第六、第七号証(各一部)によると、原告のホテルの宴会の料金は一人平均少なくとも千円を下らないことが推認されるので、朝食人員一、一六四人、夕食人員九九八人、休憩、宿泊のみの料金各二〇〇円朝食料金二〇〇円、夕食料金五〇〇円、宴会料金一人一、〇〇〇円、酒類の荒利益率三割として計算すると、夕食料金額は被告主張のとおり四九九、〇〇〇円となるが、休憩料金額は九八、〇〇〇円、宿泊料金額は三三二、八〇〇円、朝食料金額は二三二、八〇〇円、宴会料金額は二三〇、〇〇〇円、酒類売上高は一〇四、三九二円となる。そうするとホテルの総売上高は以上合計額一、四九六、九九二円となる訳である。

しかして被告主張の計算方法は以上のとおり当裁判所において全面的に採用し難いところであり、又甲第五乃至第七号証の中右認定に牴触する部分は右各証拠に対比してたやすく措信し難い。

従つて同年度の収入は六、五四五、九六一円二〇銭、支出は六、二三六、八七〇円三八銭、差引所得金額三〇九、〇九〇円八二銭と認めるのが相当であり、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

原告はその帳簿は正確に記帳されたものである旨主張し右主張に副う証人平松アサ、同川崎政次郎の各証言は後記各証拠に対比してたやすく措信し難いのみならず却て前記甲第五乃至第七号証乙第二十七号証、第三十一号証の二、並びに証人伝崎正郎、同齊藤義勝の各証言を綜合すると、原告の帳簿には一部脱漏のある事実が推認され、結局右帳簿のみによつてはその所得の全体を把握し難いものと解されるから右主張は採用しない。

以上の次第で、被告のなした原告の昭和二十三年度所得金額の更正の中前記認定の金額一七、〇九三円を超える部分及び昭和二十四年度所得金額の更正の中右認定の金額三〇九、〇九〇円を超える部分はいずれも違法であるから取消を免れないものというべく、原告の請求中右の部分は正当であるからこれを認容するが、その余の部分は失当であるからこれを棄却すべく、民事訴訟法第九十二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 乾久治 仲西二郎 白須賀佳男)

(別紙省略)

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